長谷川迅太の作品は、主に旅の中で撮られた様々な景観のカラー写真をカラーコピーし、それに熱を加えつつ木の板と共にプレス機にかけることで画像を板の表面に転写させるという、独特の手法によってつくられる。ここでは、転写された写真のイメージは、板の質感や色彩あるいは薄く浮き出た木目の模様と混ざり合い、もとの景観に含まれるものとは異なる、過去の記憶を辿るようなどことなく懐かしいイメージが生み出される。
今回制作された作品は、デンマーク最北端の地,skagen(スケーエン)の海をモチーフとしたものが主となっているが、これらの作品では、一つの画面に3枚〜5枚の画像を重ねて転写するという、版画の多色刷りを思わせる手法が試みられた。この中でも、同一の画像を僅かに位置をずらしながら重ねたものでは、フォーカスは合っているのに画像はどことなくおぼろげに見え、それが彼の記憶の中の光景であることことを暗示させ、異なる光景を数枚重ねたものでは、彼がこの地を旅する中で過ごした時間の流れそのものが、絵画にも似た色彩とかたちを伴って表されているような気がしてならない。そして、彼の記憶の内に推積するこのおぼろげな光景と相対する私たちは、何処とも知れない懐かしい未知なる地への旅を、意識の中でリアルに追体験することができるのである。
text
篠原 誠司 (GALLERY ART SPACE)