1966年から1976年までの10年間を体験したか否かによって、中国人同士が「世代の差」を大きく感じていることを、私は中国に住みながら知った。韓国で生まれ育った私はそのころ、中国の「文化大革命」について一度も聞いた覚えがない。当時の韓国政府は中国とは国交を持たず、韓国人にとって中国は朝鮮戦争で戦った「敵国」でもあったから、その国の激動に関心を寄せるはずもなかったのだ。
8年前から中国の大学で写真を教えることになった私は、自分にとって空白の部分である中国近現代史に関心を持つようになり、文革に関する資料や古い写真などを集めるようになった。その時代の記録写真は、反共教育を受けて育った私には、恐怖であり驚きだった。しかし私の教える中国の若い世代は、文革に恐怖よりも興味を持っているらしかった。
中国では今でも、「文革」の体験談が大声で語られることはない。迫害を受けた者にとっては、思い出したくない、触れられたくない傷跡なのだ。その時代に紅衛兵だった者たちが今、政権を握り、社会の中枢にいる。大学生の親たちも、「小紅衛兵」として時代の渦の中に巻き込まれていた者が多い。彼らは当然、自らの過去を美化し、武勇談を語りたがるだろう。
若い学生たちは、文革時代の雄壮な雰囲気にあこがれを抱くと同時に、自分たちの理解を越えた画一的な行動に一種のおかしさを覚えているのではないか。まるで美しい記憶と面白い娯楽のように、あの時代をとらえているのではないか。
ある日、学生たちが農村へ撮影に出かけると言う。彼らは遠足にでも行くような風情でバスに乗り、農村に到着するとカーキ色の人民服に着替え、嬉々として文革時代のポーズを再現し始めた。彼らが参考にしているのは、私の手元にもある当時のプロパガンダ(政治宣伝)写真だ。悪ふざけなのか、それとも美化なのか。あの時代を知らない世代の陽気さに、私は複雑な思いでシャッターを押した。
組写真の左は1967年に撮影された記録写真。右は2006年に私が撮影した、中国の学生たちの演じる「文化大革命」だ。どちらも演出された写真である。演出された時代を写しとった写真と、その時代を真似る若者の姿。あの時代の本質を知ろうとしない中国の大学生と、知りたいとあがく私。中国社会が抱える葛藤の一断面を、外からやって来た私が見つめている。この組写真のアイロニーは、幾層にも重なっている。
| 略歴 |  | 
| 1962年 | 韓国ソウル出身 | 
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| 学歴 |  | 
| 1984 | 新邱大学 写真科卒 | 
| 1989 | 光州大学校 産業デザイン科卒 | 
| 2000 | 祥明大学校 芸術デザイン大学院 写真学科芸術写真専攻(修士)卒 | 
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| 経歴 |  | 
| 1984〜1987 | 広告スタジオ勤務 | 
| 1989〜1993 | 月刊誌写真部記者 | 
|  | 以後、フリーカメラマンとして活動 | 
| 1996〜2000 | 中国 延辺大学民族研究所研究員 | 
| 2000〜2003 | 中国 延辺大学芸術学院 写真科教授 | 
| 2003〜2004 | 中国 大連医科大学 影像撮影学院教授 | 
| 2005〜2006 | 中国 南京林業大学 南方撮影学院教授 | 
| 2006〜現在 | 中国 南京視覚芸術学院 撮影学院院長 中国 延辺大学芸術学院 写真科教授
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| 所属 |  | 
| 韓国 | 民族写真家協会会員 | 
| 日本 | 写真芸術学会会員 | 
| 中国 | 高等教育学会写真教育理論会会員 | 
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| 受賞 |  | 
| 1984 | 大韓民国写真展覧会(国展)入選 | 
| 1984 | 韓国美術大展 写真部門 金賞 | 
| 2002 | 中国吉林省優秀外国人教師賞 | 
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| 展示 |  | 
| 日本・個展 |  | 
| 1994 | 『青鶴洞の人々』ニコンサロン(東京) | 
| 2002 | 『朝鮮族イヤギ(物語)』京都市国際交流財団ギャラリー(京都) | 
| 2007 | 『変わるものと変わらないもの〜青鶴洞』ビジュアルアーツギャラリー(大阪) | 
| 2007 | 『風の島済州』ギャラリー渡来(大阪) | 
| 2007 | 『変わるものと変わらないもの〜青鶴洞』アジアフォトグラファーズギャラリー(福岡) | 
| 2008 | 『存在する夢―青鶴』汐留メディアセンター ギャラリーウオーク、馬喰町ART+EAT、大倉山記念館ギャラリー(横浜) | 
| 日本・グループ展 |  | 
| 2002 | 『百年の記憶〜柳銀珪&アン・ビクトル展』世田谷文化情報センター(東京) | 
| 2002 | 『延辺大学教授&学生作品展』スタジオ・アーカ(大阪) | 
| 2004 | 『アジア写真新風〜中国十大学写真科教授展』スタジオ・アーカ(大阪) | 
| 韓国・個展 |  | 
| 1988 | 『矯導所』光州学生会館(光州) | 
| 1990 | 『青鶴人』ソウル耕仁美術館(ソウル) | 
| 1994 | 『忘れられた痕跡』韓電プラザギャラリー(ソウル)、朝興銀行文化館(光州)、東亜百貨店ギャラリー(大邱)、新世界百貨店ギャラリー(仁川) | 
| 1999 | 『韓人面貌〜中国朝鮮族』ソナム美術館(ソウル) | 
| 2000 | 『忘れられた痕跡U〜写真で見る朝鮮族百年史』世宗文化会館(ソウル) | 
| 2001 | 『忘れられた痕跡U』ロッテ百貨店ギャラリー(光州) | 
| 2002 | 『忘れられた痕跡U』軍浦市民会館(軍浦市) | 
| 2006 | 『柳銀珪の青鶴洞物語1982〜2006』ポスコ美術館(ソウル) | 
| 韓国・グループ展 |  | 
| 1996 | 『私たちの写真〜今日の精神』インデコ画廊(ソウル) | 
| 1997 | 『もう一つの出会い』三星ギャラリー(ソウル) | 
| 1997 | 『ソウル写真大展』ソウル市立美術館(ソウル) | 
| 1999 | 『私たちの写真〜今日の精神』文芸振興院(ソウル) | 
| 1999 | 『時間の線分』 ソナム美術館(ソウル) | 
| 2000 | 『今日の朝鮮族』大邱文化芸術会館(大邱) | 
| 2000 | 『河南写真フェスティバル』(河南市) | 
| 2004 | 『アジア写真新風〜中国十大学写真科教授展』新世界百貨店ギャラリー(仁川) | 
| 中国・グループ展 |  | 
| 2001 | 『延辺大学美術系教員作品展』延辺大学芸術学院展覧館(延吉市) | 
| 2002 | 『真視覚〜写真科教授展』延辺大学芸術学院展覧館(延吉市) | 
| 2003 | 『真視覚〜写真科教授展』延辺大学芸術学院展覧館(延吉市) | 
| 2004 | 『平遙国際写真フェスティバル』(山西省平遙) | 
| 2006 | 『視覚2006〜南京視覚芸術学院&豪州中央TAFE大学交流展』江蘇省美術館(南京市) | 
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| 出版 |  | 
| 韓国 |  | 
| 1997 | 『忘れられていくものたち』 三星火災出版部 | 
| 1998 | 『忘れられた痕跡〜中国朝鮮族抗日独立運動家遺家族の肖像』 図書出版フォトハウス | 
| 2000 | 『忘れられた痕跡U〜写真で見る朝鮮族百年史』 A.P.C. KOREA | 
| 2006 | 『青鶴―存在する夢』Wow Image | 
| 日本 |  | 
| 1999 | 『ワールドカルチャーガイド〜韓国』 (株)トラベルジャーナル | 
| 2000 | 『世界のこどもたちは今〜韓国編』 (株)学習研究所 |