貞亨元年、秋風の吹く中を、松尾芭蕉は野ざらしを心に関西への旅に出た。
『野ざらし紀行』である。
「今、無性に歩きたい。歩き続けたい。」「シンプルな旅がしたい。」
そんな想いが近年頭から離れません。歩き旅に出ようと心に決めたとき、私は自分で背負える荷物をザック一つにまとめ、ゆっくり歩き、その場所の気温、風、ニオイ等を感じ、四季の変化のうつりかわりを意識できたらなぁ、そんなことを漠然と考えていた。
旅にでている最中、焦る気持ちを抑えてゆっくり歩く。歩く速度は一時間に3、4キロ、一日20〜30キロの歩む世界なのである。私の旅では、目的地に着くのが一番の目的ではない、歩いている途中での出会いが大切なのだ。おじちゃんだの、おばちゃんだの、にいちゃんだのに出会って、後で、ああ、あそこでこんな話をしたなあというひとがらみの記憶と、また以前出会ったことのある過去の風景の似ている所、町並みが似ていたり、道路が似ていたり、路地が似ていたり、こういうところで自分が遊んでいたとかという記憶と重なった時、懐かしい風景だなとついつい立ち止まり、寄り道をしてしまう。
寄り道をすること、思ったところですぐに立ち止まることが出来るかが重要な要素・・・
そうやって歩いてゆくのだ。
私はただただゆっくりと見て歩いた。自分のスピード、歩幅で東海道の鈴鹿峠、中仙道の鳥居峠等の峠、あるいは木曽11宿といわれた木曽の山路等を訪ねたのである。300年前の芭蕉が見た風景と現在の風景をオーバーラップさせ、日本という国の形を脚でなぞりたいという想いから、私を町が街道が歩かせたのだ。東海道、伊勢街道、中仙道、甲州道中と・・・